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2025/04/15 組織開発
DEIは文化によって変わる!アメリカと日本の“多様性”の捉え方

「DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)」という言葉が、日本企業でも定着しつつあります。しかし、制度を導入しただけでは現場が変わらず、「なんとなく取り組んでいるが効果が見えない」という悩みを抱える企業も多いのが実情です。その背景には、DEIの成り立ちや文化的文脈がアメリカと日本でまったく異なるという事実があります。DEIの“本質”を理解するには、ただの制度論ではなく、「なぜアメリカでこの概念が生まれ、どう機能しているのか」から見つめ直すことが必要です。
目次
アメリカは“人種”、日本は“ジェンダー”
アメリカのDEIは「人種的不平等」への制度的対応から始まった
アメリカにおけるDEIは、「人種」の不平等を是正する文脈から生まれました。特に第二次世界大戦後から1960年代にかけて、アメリカでは深刻な人種差別に対抗するための法制度が整備されていきます。
その代表例がアファーマティブ・アクション(Affirmative Action, 以下AA政策)です。AA政策は、黒人、ヒスパニック、アジア系など、歴史的に差別を受けてきたマイノリティが教育・雇用の機会を得られるよう、大学入試や雇用の場において一定の優遇措置を与える政策です。これは単なる「機会の平等」ではなく、「過去の不平等を是正するための積極的な対応」を意味し、DEIの“E”(エクイティ=公平性)に直結します。
マイノリティ内の格差にも対応が求められる
アメリカでは、「マイノリティ対マジョリティ」だけでなく、「マイノリティ間の格差」も大きな課題です。たとえばアジア系とアフリカ系では、学歴や収入に大きな差があり、「多様性の確保」だけでは不十分とされるのが現実です。このように、DEIは単に「異なる属性を取り入れる」だけでなく、不均衡の解消や構造的問題への対応を重視しています。
一方の日本は「ジェンダー」中心。構造変革には至らず
これに対して日本では、DEIの文脈は主にジェンダーに集中しています。これは日本の国際的なジェンダー格差指数(Global Gender Gap Index)が先進国の中で非常に低く、女性の登用が課題とされていることが背景にあります。女性管理職比率や育児支援制度の整備など、制度面での動きは進んでいますが、人種や宗教、性的マイノリティなどへの配慮は、まだ制度レベル・意識レベルともに発展途上です。つまり、日本でDEIを語る際、アメリカのような“構造的格差への対応”ではなく、「制度導入=解決」とみなされがちであり、その限界がしばしば指摘されています。
宗教観と実力主義が支えるアメリカの自己責任文化
神が与えたもの=“生まれ持った差”を受け入れる思想
アメリカ文化を支えているのは、プロテスタント的な宗教観と、それに紐づく実力主義です。アメリカでは「才能や資質は神から与えられたもの」「努力によってそれを最大化するのが信仰の証」という価値観が強く、これは社会に深く根付いています。この背景があるため、「後から差を埋めるために手を加える」ことに対し、一部では宗教的・倫理的な違和感が生まれます。エクイティの考え方──個別の事情に応じて機会を調整するという発想が、社会全体に浸透しづらいのはこのためです。
日本の“みんな一緒”文化と表面的平等の罠
一方、日本では「がんばれば報われる」という昭和的な成功観が未だに根強く、学校教育や職場文化も“画一的な枠に適応する力”を求めがちです。そこには「同じように扱うことが平等」という誤解があり、個別対応を“特別扱い”と見なす空気が存在します。この文化は、制度やルールを整備しても、現場の納得感が伴わなければ機能しないことを意味しています。制度ではなく、「価値観」に働きかける必要があるのです。
DEIの制度より構造を問い直す
制度を入れても変わらないという壁
DEIに取り組む日本企業の多くが直面するのが、「制度を整えても職場の空気が変わらない」という壁です。たとえば、「女性管理職比率の向上」「障がい者雇用の数値目標」などの導入が進んでも、現場での受け止め方は「形だけ」「やらされ感が強い」というものになりがちです。制度を入れること自体が目的化し、「構造」や「文化」への問い直しがなされていないため、定着や浸透に至らないのです。
アメリカでもDEIは揺らいでいる─2023年最高裁と“反DEI”の潮流
DEI発祥の地とも言えるアメリカでも、現在DEIは大きな転換期を迎えています。
2023年、連邦最高裁は「大学入試における人種考慮(アファーマティブ・アクション)」を違憲とする判決を出しました。これにより、大学の入試基準から「人種」を考慮する方針が排除され、DEIの柱である“エクイティ”(公平性)に対する正面からの逆風が吹き始めました。
この流れは、トランプ政権下で広がった保守的な価値観の延長線上にあります。
保守層はDEIを「白人やアジア系への逆差別」「努力が正当に報われない不公正な仕組み」とみなしており、“反DEI”の政治運動や法的圧力が企業や教育機関に強く及ぶようになっています。
しかしDEIは“形を変えて残っている”
ただし、DEIは「終わった」わけではありません。
むしろアメリカでは現在、「ポストAA時代」のDEIが模索されており、
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人種や性別ではなく「困難な環境で育った経験」など文脈を重視した採用基準
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「公正」「アクセス拡大」など価値観ベースの文言への移行
といったかたちで、DEIの思想自体は再構成されながら生き残っています。
つまり、制度への反発が高まっても、「人々が機会を持てる公平な社会を実現したい」という根底の価値観までは否定されていないのです。
日本企業に求められるのは、“構造を問う翻訳力”
このような国際的な潮流を見ると、日本企業がDEIを導入する際には、表層的な制度模倣ではなく、自社の文化や経営戦略に合った“翻訳”が求められることがわかります。
たとえば:
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なぜこの職場では、発言できない人がいるのか?
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なぜ特定の社員層だけがリーダーになるのか?
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誰の「力」が、まだ発揮されていないのか?
こうした問いを通して、制度の設計ではなく、「組織の構造」や「文化の前提」にメスを入れていく必要があります。
制度が揺らぐ時代だからこそ、経営者自身の信念と言葉で、“誰のために”“何のために”DEIに取り組むのかを再定義する力が求められています。
まとめ:DEIは“自社に合わせて設計してこそ”力になる
アメリカにおけるDEIは、深刻な人種差別への制度的対応として始まり、時に逆風を受けながらも“形を変えて”今なお再構成されています。一方、日本では制度や目標導入が進んでいるものの、構造的な不均衡や文化的な価値観への問い直しが不十分なまま、DEIが「形だけ」で終わっているケースも少なくありません。制度は環境を整える一歩にすぎません。企業の価値や組織の文化に合った“翻訳力”こそが、DEIを戦略へと昇華させる鍵です。誰が声を出せていないのか。誰が力を発揮できていないのか。その問いから始めるDEIこそが、組織の強さと持続可能性を生む真の経営基盤となるのです。
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